»non-title«

ヘルプに入っている別チームの理工系青年はもはやS さんに対して苛立ちのようなものを感じているらしい。

ひと月前までは周囲をまったく慮らないS さんの挙措をながめながら 「あのひとは 《オフィスの超人》 ですね!」 などと、ニーチェと『オペラ座の怪人』をもじって面白おかしく話ていたのに、いまでは苦々しい表情と皮肉な微笑を浮かべて 「あのひと見てるとなんか腹たってくるんですよ・・」 とポツリ呟く以外は黙っているのである。

どうやら彼は、過去にS さんから煮え湯を飲まされた各チームの上長氏や管理者氏から様々な逸話を聞かされて、ようやく笑いじゃすまされない事案だということに気づいた様子であった。

とはいえ 当のS さんといえば、放置処分が効き始めたのか、入社5年目にしてようやく自身から「別の業務にも携わりたいからどうか指導して欲しい」と、大嫌いな管理者(女傑)に頭をさげ、「生涯一指示待ち漢」からの脱却を意思表示していたのである。

そのことを管理者(女傑)が支店長に諮ったところ、「デイリーの『午後イチ報告書』『終業時報告書』の作成ならばよし。ただし毎回、上長or管理者の確認が必須!」とのありがたい御言葉をたまわったので、先週から大嫌いな上長、大嫌いな管理者(女傑)から手厳しいコメントをもらいながらも、「放置されるよりはマシ」だとばかりに、Sさんなりに一所懸命な姿を見せてはいる(すくなくとも今までにはなかった変化が彼のなかで生起しているらしい)状況にあることを、秋の訪れとともに此処に記しておきたい……。