盗用の悲しい思い出はたしか7歳のときだ。
天才バカボンハジメちゃんの俳句をわら半紙に書き付けて母親に差し出したのがそれである。「お月さんに手を振っている薄の穂」のような一句であった。

ちょいと母親を吃驚させてやろう程度の魂胆であったのだが、思いのほか彼女の喜びが大きく、丁度滞在していた山梨の祖母に、「みてよみてよこの子の俳句なのよ。よくできてるじゃない!」と大はしゃぎなので、それに気圧された俺は、「ちがうよ、実はハジメちゃんの俳句なんだよ・・・」と白状せざるを得なくなってしまったのである。

しかしながらなにぶん天才バカボンからの盗用である。おそらくバレることはないだろうし、ほんの暇つぶし程度のことなのだから、なにも莫迦正直に白状するのではなく、「ここまで天真爛漫に喜んでくださるのだから黙っていよう」と所謂大人の判断を下すことも出来たはずであり、そうであれば俺の人生はもっとマシになっていたのかもしれないなあと思ったりもする。

あのときの愚母と亡祖母のガッカリした表情は、俺が死を迎える瞬間の走馬灯のひとこまとなるに違いあるまい。