仕事上で、誤記によって冷や汗をかいたことは一度や二度ではないけれど、かつて担当したクライアントが学校歴偏重者であったがゆえに難を逃れたというヘンな出来事経験もあった。

事前に上司からは、「彼は業者泣かせで有名な人物だから心してかかれ」と脅かされていた。たとえば、途中経過のレポートに一箇所でも誤記があるとネチネチネチネチ小一時間も文句を言うお人柄であり、加えて、てにをはに偏執的なこだわりを示すというのだ。たとえ誤記でなくとも御自身のセンスに合わない文章に対しては赤のサインペンで全頁真っ赤にして、電話で呼びつけた担当者の前へ突き出し「こんなになっちゃったよ〜、こ・れ・でお金とるおつもりですか〜」と迫る。「すみません、今日中に書き直します」と謝ると、「いいです。もうわたしが直したんだから、3時間もかけて!」と突っぱね一挙に値切り交渉へと突入する非人情的戦略家だというのだ。
過去の担当者からも同様のことを繰り返し聞かされたので、正直うへえーという気持ちで臨んだのだが、少なくとも俺に対しては常にフツーであって、「あのね、一部誤記があったけどわたしがなおしちゃったからね」などと優しい態度で接してくれることすらあったのだ。よほど当該プロジェクトの進捗状況に満足しているのだなーと安堵した。
なので納品後、営業担当のAさんから「もう笑っちゃうわよ、あなたのことね『なかなか面白い話聞かせてもらったよ。ま、なんだかんだいってもテー大卒だからな、奴は』なんていってるのよ」などと、まったく想像だにしなかった彼の巨大な勘違いを知らされた際には、己の仕合わせを真実噛みしめつつ、おいらの代りに散々なとばっちりを一手に引受けて往生していたAさんに深甚なる感謝の意を伝えた次第なのでした。