商店街のはずれを歩いていると、
「いかねぇーのかよおお!! くらぁ、てめぇはよぉ、ざっけてんじゃぁねぇーぞおおお!!」と怒っている御仁がいる。

スワっ喧嘩かとそちらに眼をむけると、肥えたボディーに金髪系短髪、加えてちょいワル不精髭をさらしたお父さんが小学生の息子を叱っているのだった。

しかし余所目には、どうしようもないお父さんが、クールで賢い(おそらくお母さん似の)息子に全く相手にされていないという構図である。

その場に残されたお父さんは息子の背中へ恨めしげな視線をねちっこく送っている。

息子は文字通り意に介さぬ涼しい表情で一度も振り返ることなく、さっさと駅方面に歩を進めている。

お父さんは息子と何処に行くつもりだったのだろうか。

あの癇癪から察するに余程楽しみにしていたことがあったのに違いない。


まったくの想像であるがこれは......、
別れた女房と生活している息子との面会日。
「ボク、やっぱり塾へいくよ」と、夕食後の約束を反故にされたお父さんが、
どうにも抑えることができず爆発させた哀しみの表明だったのだ。


腰折れ川柳
誰が怖ず 小津から隔つこと千里


父ありき [DVD] COS-018

父ありき [DVD] COS-018