低層向けの派遣先には、定年退職後の老人を積極的に雇用する会社もある。なぜなら、椅子に座って従事できる仕事への雇用機会がほぼ閉ざされた老人たちは翌月も契約更新できるよう忠実に職務に励み、けして謀反を起こさないからだ。ブラックな事情を週刊誌や新聞にたれこんだり、2chやらブログやらツイッターやらに、企業名を匿名化せず、あることないことを書き込むこともないので、雇用者にとって安心できる人材層という按配なのだ。

なので、被雇用者のうち40代以降の割合が30代までを凌いでいたりするので、その場合職場全体が灰色と茶色に染まるかのように見えたりする(ただし管理業務はデジタルネイティヴである原色系若者層が担当)。

私が出会った老人のなかには、一部上場の有名企業を無事定年退職したにもかかわらず、ありあまる余生の可処分時間をうまくやりすごすことができないので応募してきた方もいたが、なんたって一年ほど前までは重役だったひとなので、ホント奇特な方であることよと思った。
でもそのうち、自分の子供より遥かに年下の現場管理者からあからさなまなレスペクト・レス対応を受けて、やれ「ここは軍隊かっ」だの、「あの女はKGBかっ」だの、顔を真っ赤にしていきりたってウルサくてかなわないこともあり、そんな際には、「ここは全然ましな方ですよ? こんどためしに東京湾ぺりの工場とかいってみたらいいですよ。20代〜30代前半の社員に『オッサン』とか『オ・マ・エ』とか『おいコラっ』とか、それはそれは素敵な対応をうけることもあり得ますよ」と当てこすり気味に教示差し上げてみることもあったのだが、「ひでえとは聞いていたけど、これがいまの日本なんだろうな・・・」と苦笑しながら「でもな、こいうことを自分自身が体験できて正直良かったと思ってるんだよ。ゴルフなんぞにうつつぬかすよりよっぽど意味がアルよ、これは・・・」などと、まるでV.E.フランクル先生がナチス強制収容所内にて出会った富裕階層出身少女のようなことをぬかされるので、そこはかとなく業腹な気持にさせられることもあった。

とはいえ、かれらは何十年も日本の経済を支えてきた立派な元・企業戦士なので、業界の裏話などいろいろと貴重なお話をうかがう機会も少くなく、一緒に仕事ができてこのうえなく愉しかったことも言い添えておきたい。