この夏の思ひ出

「恥ずかしい」と「猥褻」から思い出した。

この夏もっとも暑かった晩、都内某駅ビル内のベンチで休んでいると、屋内駐車場連絡口のほうから大声が響いてきた。

最初は何か口論のようであったが、総白髪でTシャツ(柄入り)+ショートパンツ+サンダル履き姿の地元民とおぼしき御爺さんが、「みなさん痴漢でーーす!」と叫びながら小柄なサラリーマン氏に蹤いて来ており、つづけて、「この男は裏道でチンポコ出して歩いていた痴漢でーす!!」と、その事情を触れ回り始めた。

サラリーマン氏はキッと口を真一文字に結び真正面を見据えていた。御爺さんは見た目は七十歳あたりではあるが声が非常に若かった。そのうちおれの視線をガチッと噛みながら、「こぉの野郎とんでもねー奴だよ、自分のチンポコ露出して歩いていやがんだよぉ、どーゆー神経してやがんだっこの変態野郎」とまで言い放った。

俺は子供のころから一言余計な人間であり、それはもう金輪際治りそうもない「病い」みたいなもだと諦めてはいるのだが、そのときもつい、『太陽のせいじゃないのかね?』とまぜっかえそうとするので、それをなんとか寸止めした(黒帯レベルである)。

しかし御爺さん、当該駅の裏道からここまでよくもまあ追っかけて来たもんだと思った。とにかくその裏道は街路灯がまばらなために暗いので、もしかするとそうした迷惑行為が頻発する場所なのかも知れないとは思ったが、激しい尿意に我慢できず植え込みのあたりで立ちションをして、なにせグローバルな猛暑の晩であったから頭が朦朧としてをり、ついついズボンのボタンを外したままチャック全開で歩いているうちに御逸物が開陳されていたのかもしれぬとも思われた。

あるいは「この御爺さんこそが『変な』おひとであるのかもしれぬゾ」とも思えてくるのだった……。