どっかの富裕層婆さんのグチから、007、そしてゴダールへの連想


わが国の元気のいい爺さん婆さんは往来を歩いていてもついつい本音でものごとをくちゃべっていたりする。
先日都内某病院そばのベンチで休んでいると、介護ヘルパーの女性に連れられた、一見して富裕層だと分かる婆さんのグチが耳に飛び込んで来た・・・。

:「おクスリ、ちゃんとかばんのなかに入ってますか?」
:「はいってますはいってます。もういくら飲んだってよくなりゃあしないけどもね……」
:「でも、きょうは息子さんが迎えに来てくれるんでいいですネ!」
:「あの子はヨメのいいなりでね、年に2回くらいしか会いにきませんのよ。また何かたかってくるんじゃないかと思うとね、ホントに腹立たしいのだけど……」
:「海外に会社をもってらっしゃるんですから、お忙しいんですよ」
:「忙しいいそがしいって言いながらね、しょっちゅう遊びがてら帰国してるんですよ。孫つれてディズニーランドやら、ヨメの趣味でサントリーホールやら、さんざん遊び回ってるのよ。こっちが知らないとでも思ってるのかしらネ。」
:「たまには息抜きも必要なんじゃないですかね」
:「あの子にはね、ほんと沢山のお金をつぎ込みましたよ。ええ。小学校から大学まで私立一貫で、寄付もして、アメリカの大学院いきたいっていうからいかせてあげて、いちど起業したいっていうから資金だしてあげて……」
:「でもいずれ会社は引き継がれるのでしょ、息子さんが?」
:「いいえっっ。うちの会社は信頼できるひとに売却しようと思ってんですよ」
:「それじゃあまたスゴいお金が入ってきますね。わたしみたいな者からすると夢みたいな話です」
:「えっ!? 夢みたいですって?」
:「はい」
:「あなたって・・・なんていうのかしら・・・もう・・・ウフ・・・ウフフフフ」
:「は?」
:「ほ〜んと、のんびりしてらっしゃるというか……。でもね、いいのよ貧乏で。むしろね、貧乏でいたほうがいいのよ」
:「えええ!?そんなことないと思いますけどぉ……」
:「結局ね、私たちが面倒みることになるんだから」
:「?」
:「貧乏人はね生活保護に逃げれば安泰なのよ。日頃ニュースくらいは観なさいね、みーんなやってるじゃないのお?」(目が笑っていない笑顔)
:「そうなんですか?」
:「そうなんですかもなにもね、けっきょくこの國はね、共産主義国家なんですよっ!」(突如激昂)
:「キョーサンシュギ?」
「そうですよっ!だからネっ、うちの息子みたいに特別優秀な人間はみんな海外に出て行っちゃうんですっ!」(さらに激昂)
:「……あっ、息子さんの車じゃないですか?」
:「アラ、早速来たみたいね。もう今日はここまででいいわよ。次に訪問する御宅、近いんでしょ?」
:「はいっ。それじゃお大事に!」(ものすごくホッとした表情)
:「ほんじゃーね!」


いやしかし、ネット界隈的にはじつに符合的・タイムリーな会話なのでちょっと吃驚した次第である。かつ、ここまであけすけな富裕層のグチを聞いたのも初めてではあった(ちょっと認知症の気もあったかに感ぜられたのではあるが…)。
そして、その婆さんがいそいそと息子の外車にのって遠ざかっていく景色をボンヤリ眺めていたら、007に登場する名車・DB5の仕掛けの如くに、シートから垂直にとび出した当該婆さんが「あひぇ〜〜っ」と叫びながらそのまま昇天されるという、若干無慈悲な妄想が浮かんできてしまった……。
さらに、ジャン=リュック・ゴダール監督『気狂いピエロ』のなかで主人公・フェルディナンが、昔中東の一国で王妃だったヨボヨボの婆さんの手をとって港をあるいているシーンが想起されるのであった……。
その武智豊子キャラの元王妃・婆さんが、「独裁は必要です」と、フェルディナンに淡々と問わず語りしていたのが印象的だったからであろう。