宴会、セクハラ、あるいは岡本太郎

西暦二千年も十年代半ばをすぎたいま、巨きな企業というか、老舗大企業様で昭和的に大規模な社員旅行を慣行しているところってまだあるのだろうか?

大学4年生のとき(バブル経済期)、われわれより一足さきに卒業していた(学年がひとつ上だった)友人・Rが飲み会にやってきて、やれ「社会人は大変だ」、やれ「休み明けにまた会社にいかなければならないなんて鬱だ」、やれ「おまえらは社会に出ることの本当の意味がわかっていない」などと、こっちの方が“やれやれ”と言いたくなる愚痴をこぼし始めたのだったが、酔っ払うと突如カオティックな人格に変容することで定評のあるCが、「テめーの方が社会を分かってねーんだよ!! ざっけてんじゃねーぞ!! おれはな、1年生からずーっと焼き鳥店でバイトしていていまじゃ社員と同じ働きをしてるんだ!! おまえみたいにヤワな野郎がいたら即刻くびにしてやる!!!」と啖呵をきるのだった。

Rは「おまえなあ、性格の悪い上司とか、意地の悪い先輩とかに一日囲まれて働いてみい? あいつらと一緒に女の子がいる店とかに飲みにいってみい? あの下劣さに付き合わされることを考えてみい?」と抗弁するのであったが、Cは怒髪天を突くいきおいで、「甘ったれるんじゃねえぞ!! おれはなあ、まさにオマエが軽蔑しているようなサラリーマンになってやろうと思ってんだよ。スダレ頭の中年太りになって、加齢臭放ちながら女子社員にシモネタかましたりケツ撫でたりしてゲハゲハいってるような、そんなサラリーマンにおれはなろうと思ってんだ!!!」と言い放ち、「それが大人になるってことなんだ馬鹿野郎!!」と付け加えた。

その1年後だったか、ほぼ同じ面子で飲み会があったとき、独り酔いが深まっていくCが、やれ「社会人は大変だ」、やれ「休み明けに再び会社にいかなければならないなんて鬱だ」、やれ「ここにいる大学生なんぞ何も社会のことなんて分かってねえ」などと、どこかで聞いたことのあるセリフを臆面もなく吐き出し始めるので周囲はあっけにとられるばかりであったが、ここぞとばかりRは「おめえよー1年前にオレにいったこと覚えてんだろうなあ?焼き鳥屋のバイトの分際で社会人だと?笑わせるんじゃねーよ!会社ってどんなもんか分かったろ!!あほめがっ!!!」と、前年度に失った面目をとりかえしにかかりはじめ、「いっそのこと会社なんて辞めちゃえよ?」とまで挑発し、最後には、「うぐぐ」と唸るばかりのCに向かって「キシシシ…」と意地悪く嗤うのであった。

おれはCに、「あんなに気勢をあげていた君がずいぶん情けない言葉を吐くじゃないか?一体なにがあったのだ?」とあらためて訊いて見たのだが、やっこさん、「とんでもねえよヒック…ウチの会社ってとんでもねえオッサンばっかなんだよヒック…社員旅行の宴会なんてとてもじゃないけど見てられなかったよヒック…“旅の恥はかき捨て”ってまさにあのことだよヒック…部長が旅館の非常階段で『ぎゃはははは』とか騒いでるンで何事かとみにいったら踊り場に放尿して喜んでンだよヒック…」のようなことを、ただ悲苦悲苦とこぼすばかりなので正直うんざりさせられた。

いきなりではあるが、宴会の破廉恥社員で思い出すのは、セクハラに我慢しきれなくなって大広間から逃げ出したコンパニオンのお姐さんが中庭でつったっているヒトデ形宇宙人(パイラ人)と遭遇し悲鳴をあげ、かのじょを追いかけてきた当該破廉恥社員らもたまらず腰を抜かしてしまふ『宇宙人東京に現る』の名シークエンスである。 15:48 あたり?からです。きょうみがあればご覧になってみてください。