中原昌也「誰が見ても人でなし」

今年の文學界10月号所収、中原昌也「誰が見ても人でなし」を読む。

中原昌也という人については、どうやら温泉芸者であり映画狂でありという認識のみで、全く小説を読んでなかったのだが、というより、当面は、康・町田町蔵で十分だろうと、音楽家系小説家は敬して遠ざけていた。

でも、何冊か読んでみた。よかった。遅まきながら。

あと、件の芥川賞で投票ゼロだったのも分かる。あの銓衡委員では無理だろうよ、いい加減リタイアーさせちゃえば。ということにすればいい。

ここでは「誰が見ても人でなし」の独白者の、譫妄を思わせる歪な意識の奇想が、スポーツ新聞調の<悪質な>フレーズとして、スラッシュ区切りで蜿蜒と列挙されているのを引用してみたい。

(引用箇所には何らかの教養を鍵とすべきものが含まれているのかもしれないが)このグロテスクな感覚に(無責任な?)嗤いを赦すことができるのは、たとえば、「ビートたけしオールナイトニッポン」を聴いていた世代以降ではなかろうか。

・・・・・・そこに書いてある文字を無理に何か意味の通じる言葉に当て嵌めてみるのは可能だ。例えば以下のようになる。ヘアスタイルは人目につくタイプのものが好まれる/怒声とともに破損された街灯の放置/緊急事態につき自宅の表札を外すよう警告/必死に旗を振る無駄/人生成功の機会永遠に与えられず/飼猫を白い壁に叩きつける業務/便所の大々的偽装工事/誰の関心も引かぬ手書きの死亡記事/高速道路の中央分離帯に長時間潜む女/陰気な公共建設物の無人落成式/歴史上の偉人らが陽気に復活して通行人から軽蔑の眼差し/繁華街での強制脱糞/死体を使った嫌がらせパレード/自殺者急増地帯拡大の見通し/流行室内装飾が身体に悪影響/性器にカラフルな電飾取り付け手術代行/近隣雑木林が主なペットの墓場/深夜に恐慌状態の盲学校/顔面を傷つけるタオルの絵柄に採用/公園での性犯罪オリンピック開催/無言電話専用回線/湾曲した奇形的部位から滴る液体の訪問販売/自宅近くが異常犯罪の病巣と判明するも処置なし/密かに人語を解する有毒隠花植物の対話実験失敗/猛毒物質製入れ歯/記念に都知事へ寄贈・・・使用済み生理用品満載のトラックが邸宅に突入/未解決殺人事件多発の老朽マンションに入居希望者殺到/放送終了後のブラウン管に死の暗号/(略)/駅前断首刑場のコント集/口先だけの熱狂的激励/社会的奴隷の頭部破壊機開発実験/AK47の使用法を小学校にて実演で犠牲者/写真アルバム閲覧によって暴露された美容師時代の殺人/生中継される現代の魔女裁判/ハンカチ代わりに葬儀用天幕を裁断/照明も窓もない監禁用コンクリ部屋にはドアもなかった/中に人が入ったロボットが丁寧な自殺の手引き/行政員の善意28%/50代女性のパンタロンだけでもセクシーでありたい願望に非難の嵐と殺人予告/人気の絞首芸人が今夜大挙出演/虚ろな挨拶を反復/三ヶ月早過ぎた悲惨な緊急出産/前例のない奇声による遺言の録音集/身の程忘れて思慮深い振る舞い/ラテン系男性のホットな断末魔の叫びに女学生ウットリ/若手ボクサーがはち切れんばかりの死体袋をサンドバッグに流用/地球にやさしいガソリンで焼殺事件多発/売れない自著を投げて民家のガラス破損して回る作家自殺/芸能学校倉庫から歌手志願者たちの身元不明腐乱死体を大量発見/末期的慢性アルコール依存患者を専門に誘拐拉致業者摘発失敗/人間の腹を裂いた包丁でそのまま調理/再度虚ろな挨拶を反復/自殺者の遺言生原稿に上からファンシーなイラストの落書きが可能/女性便所盗撮中の死亡事故が急増/各種家庭用品との縫合手術妄想/鳥人間コンテストを装った飛び降り自殺/市役所員が葬儀会場で熱心に心霊写真集鑑賞/愛の不毛を即興で歌にして熱唱後刺殺/売春斡旋業者が去勢手術デモンストレーションを偶発的に特別披露/テキサスでの腐った牛肉大食いコンテスト本年度受賞者を国が招聘/ガス室にて出た最後の屁に見学者失笑/厚生省からの堕胎勧告命令/違法拷問電気器具販売業者免許/被災地支援募金活動に対する否定的意見が暴力的妨害に発展/全員がオーバーオールで出席の一風変わった婦人集会で集団エボラ熱発生/都内デパートで相次ぐ試着室での謎の窒息死は壁に付着した白濁液の放つ異臭が原因/肉体切断後の部位贈与問題/(略)/人気タレント急死後に寄せられる視聴者達からの激しい憎悪が最高潮に/評判の気配り勤労青年が謎の轢殺で周囲が驚愕/大量の吐瀉物を樽に永久保存/爆弾不法所持のストリートミュージシャン歩行者天国にて血まみれ爆死で多数の観客が巻き添え/深刻な口調を真似ながら股間は不気味に突起/食事中に頭上から脂肪塊が滴る現象/アフリカからヒヒの死体を大量密輸して一般家庭の玄関に置き去る組織摘発できず/虚ろな挨拶習慣がようやく終了/自衛隊が集団陵辱演習を2月から実施/写真で見る民間割礼の失敗例/(略)/人間の体毛を使ったレシピ披露/虚ろな挨拶の無限反復/団地のゴミ捨て場で発見された身元不明の生首が突如原因不明の肥大化で2倍に膨れ上がる/言葉による理解を超えた利益追求/ソンブレロ被った殺人集団が空港の入国管理ゲート強行突破/強姦道場で有段者38名を逮捕/都が公認の公設賭博場で実弾ロシアンルーレット開催/弁論大会にて出演者同士の歴史観の違いが殺人に発展/公衆便所に隠れて16年間納税忌避/ジープ走らせての通行人無差別銃撃がアフリカでのサファリ体験を思い起こさせる/高度管理社会での強制近親相姦/(略)/詩情を超越した劣情に拍手鳴り止まず/各種ゴルフ用品使ってキャディーらをメッタ打ちに/宗教指導者から暴力的に金品略奪/公衆便所跡地から発見されたミイラが現代文明に警鐘/巨大ハイビジョンのスクリーンに映し出された実際の四肢切断場面に歓声を上げるスタジアムの観客たち/高視聴率番組の単調な手抜きテーマ曲が効果的な洗脳に使われる/警察権力の差別的な取締りによる不正利益に積年の怨念が噴出し暴動に/無機物が手術中の医師に突然憑依/無名の一般市民が首相官邸爆破に自主的関与/理髪店店主が客と口論になり鋏で頭部刺し重症/脳死患者に強制インタヴュー可能新技術導入の見通し/個人利益目的の政治的正当性が巧妙/某国を訪問した議員ら人種や宗教を無視したグローバルな大量虐殺に共感/虚ろな挨拶反復運動が今日から小学校で一般化/(略)/白昼の大通りで無人暴走霊柩車が18人轢く/特殊部隊が農業組合施設屋上から無知文盲の農民たちを一斉狙撃/主婦が群がるバーゲン会場に火炎瓶投げ込まれ全員焼死/各国での特殊自慰行為を特別料金で衛星放送/ミュージカル「コーラスライン」出演者をターゲットに計画的毒殺/イギリスから来日中の白人女学生を監禁耐久連続8時間殴打/電気椅子と便座の複合装置完成式典/新年祝う紙吹雪に埋もれていた腐乱死体/奇病で瀕死の子鹿が生中継番組に登場/両腕がない人々の集団の奇襲作戦決行/リクエストに応じて女性の啜り泣く生声を24時間一挙放送/失語症偽り全国放送にレギュラー出演中/  /(略)/切断した上半身と下半身を五百キロ以上離れた場所にそれぞれ放置/長距離マラソン選手たちが松明片手に全国の老人福祉施設を一斉に訪問して放火/ホーキング博士来日阻止運動デモで一斉蜂起/過剰に醜悪な溺死体が物語る人生賛歌本に予約殺到/人で賑わう日曜日の歩行者天国にて色の黒い国籍不明の男が吐血し急死/全国から虚言癖傾向の人間を集めてバスごと穴に落とし生き埋めに/大胆な性格が仇となって警官隊と銃撃戦で射殺/(略)/盗難ブルトーザで就寝中の浮浪者の住居を破壊し地元住民から感謝状/公園で犬の散歩していた見知らぬ親子を手製火炎放射器で攻撃/まだ惨殺されていない人間の亡霊が未来から来訪/・・・(略)・・・/将来的に一切期待できない仕事に全力投球などとかいてあるように読もうと思えば読めなくもなく。ただの黒いミミズののたくっただけだと思えばまさにそれ。・・・・・・・・・・・・・・・・

】:かなり多い、【】:かなり多い、【自殺】:少なくない、【】:もっと多いかと思った、【】:少ない、【】:意外と少ない、【】:なし?

[選]
/市役所員が葬儀会場で熱心に心霊写真集鑑賞/
 日本の何処かでほんとうに起きてそうな出来事だ。

/売れない自著を投げて民家のガラス破損して回る作家自殺/
 これもほんとにありそうな話だな。鬱な時の中原自身の自己像?

/白昼の大通りで無人暴走霊柩車が18人轢く/
 無人!?18人も......。

/高速道路の中央分離帯に長時間潜む女/
 心霊写真にちがいあるまい。

/各国での特殊自慰行為を特別料金で衛星放送/
 特殊自慰行為というのはどういう自慰行為だろうか。女ではなく、すべて男なのではなかろうか、ああ恐ろしい。

/前例のない奇声による遺言の録音集/
 「前例のない奇声」という文字だけで前例のなさを想像してしまう。オレには、カ行の響き。

/公園での性犯罪オリンピック開催/
 AVのタイトルではなく、「集団レイプする人はまだ元気があるからいい。正常に近い」という政治家の掛け声とともに開催された、未来国家の祭りなんだろうな。

/湾曲した奇形的部位から滴る液体の訪問販売/
 ココまで来ると前衛俳句じゃないですか。そうです、赤尾兜子

/誰の関心も引かぬ手書きの死亡記事/
「鉛筆の遺書ならば忘れ易からむ」林田紀音夫 を連想した。

/ハンカチ代わりに葬儀用天幕を裁断/
 関係ないが、最初の芥川龍之介全集の装丁は、龍之介が自殺した部屋に敷いてあった絨毯と同じ色を使っていたと、たしか、坂口安吾が書いていたっけか。

/中に人が入ったロボットが丁寧な自殺の手引き/
 この感覚とはズレるが、楳図かずお漂流教室』で、遊園地に残された壊れた女性ロボットが「いらっしゃいませ」などと言いながら、少年達の頭を掴んで”ぶしゅー”と潰していくコマを思い出した。あと、映画「バトルロワイアル」で、高校生らの首輪に装着された爆弾について、ビデオの女性インストラクターが、とてもおどけた調子で説明しているのを思い出す。

/人気の絞首芸人が今夜大挙出演/
 絞首芸人ってきっと、人を絞め殺すことを芸として身を立てている特殊芸人にちがいなく、それが人気番組として成立しているのだろう。

/アフリカからヒヒの死体を大量密輸して一般家庭の玄関に置き去る組織摘発できず/
 なぜ摘発できないのか(笑)

/無機物が手術中の医師に突然憑依/
 これも、前衛俳句化できそう。

/リクエストに応じて女性の啜り泣く生声を24時間一挙放送/
 生声ということは、女性を啜り泣かせるということか。それも24時間。

/まだ惨殺されていない人間の亡霊が未来から来訪/
 本人に惨殺を予告に来るのか?いや、狂喜乱舞してディズニーランドを目指しそうだ。

/記念に都知事へ寄贈・・・使用済み生理用品満載のトラックが邸宅に突入/
 爆笑。でもきっとその邸宅は都知事とは全く関係がないのだろう。