『なぜ?不思議の国ニッポン』(ダイヤモンド社/昭和62年)

テロについての言及があったので引用させていただきます。

pp.123-124 : 「ジャポネの襲来」(執筆は'86.12.6)

パリはこわいか

 「パリはこわかったですか」
と、東京に戻って来た私に、複数の知人がたずねた。こういう質問ほど返答に窮するものはない。もちろん質問の意味するところは私だって承知している。相次ぐ爆弾テロ事件やルノー公団総裁射殺事件は、日本のジャーナリズムも大きくとり上げているからだ。
 たしかに、モンパルナスの爆弾テロなどは無差別テロだから、こわいといえばこわい。しかし、被害者は不運といえば不運である。それをこわいと一方的にきめつけられると返答に窮するのである。
 テロではないけれども、日本だって酒に酔った浮浪者がバスに火をつけて乗客の生命を奪った事件があった。丸の内では爆弾騒ぎもあった。通り魔の事件だって少なくはない。
 それでも、東京をこわい都市だとはだれも思わない。外国人はもとより、だれよりも日本人自身が東京を安全な都市だと思っている。
 (略)
 ニューヨークがこわいという同じ意味でパリはこわいかと問われれば、こわくない、と私は答える。同じヨーロッパなら、ミラノやローマなどの、イタリアの諸都市のほうがずっとこわい。