医者にいかずとも風邪を克服することができた。
はやめに養生したのが吉だった。
三十代のころは春先に一度、瘧のようだと喩えられるのだろうか、突然(ほんとうに突然)四十度近く熱が上がって翌日有給休暇をとらざるをえなくなるのが恒例だったが、四十代以降はそのようなヘンな熱はなくなり、そのかわり、たびたび風邪をひくようになった。
都電某駅の公衆トイレから出てきて、プラットフォームの洗面台で顔を洗って「ぷふぁあ」として、鏡に映った自身の顔をしげしげとながめながら、「おれも歳をとったなぁ・・・」とNさんが呟いていたのは、かれが三十八歳のときだった。もう二十三年も昔のことになるんだのお。