稲妻や浪もてゆへる秋津島

昨日雷のことに触れたら、春雷の午前でしたね。

私は遠雷が大好きなんです。ぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこと雲の向こうで響いて来ると、じっと耳を傾けてしまいます。この、地すべりのような「ぼこぼこ雷」は、春と秋の深夜に聴くにかぎりますね。じつに不思議な音色・響きだと思います。始まりの瞬間はクリスピーなアタック音なのに、途端にぼこぼこぼこぼこと、巨神が玉座を引きずって天上の岩石を転がしているのを愉しんでいるかのような、そんなイメージが湧いてきます。

雷の句にも秀句が多いですね。
今日はひたすら引用してみます。

稲妻や夜も語りゐる葦と沼   木下夕爾
遠雷やはづしてひかる耳かざり  仝
春の雷ききとめし背の椅子軋む  仝

遠雷をきゝつゝひとをくどきけり  北園克衛
稲妻の崩れようにも出来不出来   「柳多留」

あえかなる薔薇撰りをれば春の雷  石田波郷

湖畔亭にヘヤピンこぼれ雷匂ふ   西東三鬼
昇降機しづかに雷の夜を昇る     仝
あかつきの雷にめざめて力待つ    仝 
寒雷が滝のごとくに裸身打つ     仝

とくに、三鬼の句では以下にびびっときます。吟じてみると分かりますが、[Si]音と[Ki]音のルフラン韻が落雷そのものなんです!空間を引き裂いた後に周囲に帯電するかのような感触があります。
雷落ちしや美しき舌の先

やはり、雷は、<神鳴><神也><神成>なので、神格の象徴とも申せましょう。と同時に、人格神的であります。【Shin】≒【Jin】ですね。

そのデンで以下の秀句は、私としては、まさに秀句です。(ただ、意外に思っているのは、田荷軒先生の作品で「雷」「稲妻」の句が思い出せないことです。)

大雷雨鬱王と合ふあさの夢    赤尾兜子
電のやどり木なりしさくらかな  榎本其角
南海ノ高波ニ乗レド雷下ラズ   夏石番矢
日本海に稲妻の尾が入れられる   仝

最後に、映画『ブレードランナー』で、ロイ・バッティ(ルトガー・ハウワー)が呟く、ウイリアム・ブレイクの‘America, A Prophecy’(1793)本歌取りした独吟です。

Fiery the angels fell; deep thunder rolled around their shores, burning with the fires of Orc.

この引用については、『「ブレードランナー」論序説』、リュミエール叢書、筑摩書房、を読んで知た次第です。

「ブレードランナー」論序説 (リュミエール叢書 34)

「ブレードランナー」論序説 (リュミエール叢書 34)