見つかった。何が?。ちぎれて飛ぶ野分の鳶が。

ずっと見失っていた一句を、『西東三鬼読本』で見つけることができた。

鳶ちぎれ飛ぶ逆撫での野分山   昭和35年『変身』

「鳶」、「ちぎれ飛ぶ」だけ覚えていたので、果たしてどんな一句だったけかとずっと気になっていたのに、なぜか見当たらず、十年以上も見失っていた。私が探そうとすると、この句はどこかにちぎれ飛んでいたのだ。まったくおかしな話だ。三鬼の句ではなかったのだろう、迷宮入りだ、とあきらめていたので、きわめて個人的に喜んでいる。

この「鳶」句からは、学生時代にOBから頼まれた一日バイトで小田原の法務局に行ったときのことが鮮明に思い出される。野分ではなく春風の強い日で、青空と雨雲があい半ばしており、間歇的にバラバラと雨滴が横殴りに降ってきて、傘なんてほとんど使い物にならなかった。陸の上空を見上げると、数羽の鳶が大きな輪を描いているが、フイに一羽が猛烈な速さで吹き飛ばされていくのである。吹き飛ばされていくと見るのは人間の愚眼によるもので、鳶らは強風を利用して、翼を休めたり、餌を追い求めたりしているのだろう。その時の、「ちぎれ飛ぶ」鳶たちの姿が、なんというか、とても頼もしく思えたのである。

さて、ほかにも、間違って永田耕衣の句だと思い込んでいて、何度確認しても見つからなかった一句が見つかった。

畦塗るを鴉感心して眺む   昭和28年『変身』

なるほど、「感心して」という感情移入は、確かに、三鬼らしい。いや、まてよ、鴉=三鬼ともよめやしまいか......。