Sくん篇(続き)

  • [小中学校時代の友達Sくん]

    Sくん:「林道出てもさぁ、下り方面には面白いスポットなんてないことが分かってたんだよ。走りこみのルートだったから。だから上り方面に向かって歩いていたんだよね」
    迂 生:「山奥ってどれくらいの奥だったの?」
    Sくん:「いや別に山奥じゃないんだよね。町まで車で20分ほどだから麓みたいなもんでしょ。雰囲気としては奥多摩みたいな感じじゃないかな」
    迂 生:「そもそもどこに泊ってたの?」
    Sくん:「OBが経営してる会社の宿泊施設なんだわ。福利厚生の。だから建物の周辺にはちゃんと電燈もあって『ムード』がないわけ」

    このとき既にSくんはできることなら話をやめたく感じていることが伝わってきましたが、そもそもかれが言いだしっぺであったので『いまさら後には引けないか・・』という風情でした。

    Sくん:「たぶん三百メートルくらいは歩いたんじゃないかな、先頭の奴が脇道を見つけたんだよ。林道は二車線くらいの道幅だったけど、そっちは軽自動車がギリギリ通れるくらいなの。『いってみっか?』『おうよ!』ってな感じでテクテク入ってったんだよね」
    迂 生:「その道はなんなの?」
    Sくん:「わからん。でもほったらかしの道って印象ではなかった。道幅も進むにつれだんだんと広くなってきて、すくなくとも往来がある道だというは分かった」
    迂 生:「読めてきたぞ。その道、つきあたりがあって、そこに墓場とか廃寺とかがあるんでしょ!?」
    Sくん:「ちゃうちゃう、そんなんじゃないの。しばらくして先頭の奴が『なんなのアレ?』ってちょっと先の高枝を指差したんだよ。じつはオレ、そのことにもっと前から気づいてた。視力2.0やしね。」

    Sくんは何となく自分を頼もしそうに誇示しましたが、視力云々はこじつけだったと思われます。なんたって、あの名画『エイリアン』が気色悪くて途中退場してしまった武勲をもつ男ですから、屹度そのときは周囲に全神経をはりめぐらせコトあらば一目散に撤退する構えでいたのでしょう。わたくしは皮肉でなしに“眞の武人”はそれでいいのではないか、とも思います。

    Sくん:「なんてったらいいのかなあ、大きな樹木の高枝が山道の上に張り出していて、もちろん枝自体が繁みになっているわけなんだけど、そこにスーパーの袋がひっかかってたんだよ。ああやっぱりこの道は普段ひとが通ってんだなって、最初は思った。だけどね、その袋の位置が右端だったり真ん中だったり左端だったり、なんか瞬間的に移動してるように見えるんだよね。だから鳥とか猿とか、とにかく敏捷な動物がスーパーの袋をくわえてるんだか、そうじゃなかったら、体のどこかに引っかかっているんじゃないかと思ったわけ」
    迂 生:「猿って寒い地域にいるもんじゃないの?」
    Sくん:「どこにもいるんじゃないの? いやそんなことはどうでもよくってさ、先頭の奴が気づいたときには、ソレ、もう人間だったんだよ」
    迂 生:「!?」


長くなっちゃったので一旦切ります。
一休み致します。