わたくしは大学予備校以外は学習塾/進学塾等に一度も通ったことがなく、そのことについてはずっと後になって、それも社会人になってから後悔したものでした。

それは、結局自分の最終学歴が五流私大どまりとなってしまった悲哀を(嫌というほど)味わったせいではなく、子供の頃は、やはり一度はしゃかりきになって勉強し他地域の生徒とも競争する経験があってしかるべきだったと思わされることがままあったからです。といっても精神論に傾いた心情とはちょっと相違しておりまして、ゲーム戦士的といいましょうか、とにかく競争することに対して極めてドライなマインドセットが養成されたのではないかと思われたからです(つまり、わたくしにはソレがあまりにも足りなさ過ぎるという自己反省があることを意味します)。加えて、進学塾のムード/内情について一切無知だということも何か自分がつまらない人間であるような気がしていたのです。

なので、高校進学塾生時代の経験をあますことなく語った上掲本は非常に興味深く、かつ、わたくし的にタメになりました。

それとかつて、「超一流高校とはいえ生徒たちには、クラスメイトがインフルエンザで病欠することを担任から知らされてパチパチ拍手をしたり歓声をあげたりするような冷酷さがあるので、人格形成という点で心配だよ」と、都内の超進学私立高校に通う子供を持つ親御さんが歎いているのを耳にしたことがあり、わたくしなどは「そんな奴はごくごく一部の性悪野郎にすぎないんじゃなかろうか?」と疑問に思ったものですが、上掲本には、優秀なライバルがドロップアウトすることに対する「安堵感」とそんな感情を抱いてしまうことへの「自己嫌悪」といったアンビバレンツな心理もしっかりと描かれており、なるほどわたくしのように「結構はアホウの唐名」を地でいくような人間が勝ち抜くことは所詮無理な世界だったことを知らされた次第でもあります。

あと、当時の公立学校の先生が「塾」に対して悪感情を抱いていたことも書かれており、これについてはわたくしの経験とガッチリ合致するところでありました。塾に通っていることを隠している生徒もいたことを記憶しています。