引用させていただきます。

pp.48-49

 それに、あなたは病人です。私の経験では、この世に病人として生きることは、生易しくはありません。
 健康な人で、病人の苦悩が理解できる人は、ごく少数です。自分の親族に重い病人が出て、その介護・心配をしている人にしか、分からないことです。親族に重病人が出て、はじめて病者の苦悩が分かるのです。それが、大部分の人間の本質です。

p.68

 性交には快楽がともないます。その快楽が好きな人には、問題はありませんが、けれども、私は「不安な快楽」だと思うています。性交の快楽は、理性の働きに反しています。自己破壊してしまいそうな危機(鬼気)を感じます。私はよく人から、お前はあまりにも理性的だ、と非難されますが。不可解な言葉です。一種のからかいなのでしょう。世の中には、私と同種の男がいると思います。ただ、そういう男は私と同じように病人や身体障碍者が多いのでは、と想像されます。

p.68

 健康でない人間の苦痛は、基本的に、健康な人には理解されません。理解されたいと願っても、七割以上には不可能です。この「不可能」ということを、よく腹に据えることが大事です。さらに大事なのは、自分よりもっと困っている人を助けることです。自分に可能な限りで。無理をすれば、必ず人生は破綻します。

車谷長吉の人生相談 人生の救い (朝日文庫)

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