水木しげる伝(下)

精神的な落ち込みが激しい日はマンガを読むのがいい。
特に効き目があるのが、水木しげるの作品。
貸本マンガ時代のものか、そうでなければ土着的妖怪以外のモチーフが望ましい。
今日は、
『マンガ水木しげる伝―完全版 (下)』 (講談社漫画文庫)
を読む。

いやほんと笑った。
こんな言い方がいいのかどうか判らないが「骨太のユーモア」にみちあふれている。
とくに人間の生理現象に寛容なのが愉しい。
その寛容さにはいつも水木流のオカシミがともなっており、凡人にありがちな野狐禅臭が全くないのである! ふはっ!!

それに、ひとコマひとコマの味わい深さが嬉しい。
コレ、なんぞは数分間眺めていても飽がこなかった。
水木さんの特徴は遠景の人物が極度に抽象化することで、ここでの電信柱あたりの通行人なんぞは殆どマッチ棒フィギュアである。多産な方なので、いちいち精しくやってられないだけなのだろうが巧まずして絶妙な味わいを産み出しているのだ(もしかしたら計算しているのかもしれないが)。いやいや、もしかしたらではなく、先生はプリミティヴアートがお好きなので、もとからモダン感覚が備わっているのかもしれない。そのテイストは、東考社版『悪魔くん』に全開されているように私は思う。

当作品でもっとも可笑しかったのが駅で待ち合わせた白土三平がベンチで寝ているカット。
真っ黒く大きな足がベンチから飛び出て、「グー、グー」と吹きだし無しの鼾を立てている。
水木さんは他人の「グー、グー」に大らかなのである。
眼を覚まして起きあがる白土三平は長髪を肩まで垂らした八の字髭(逆カイゼル)の仙人面だ(ほんとかよ?)

アシスタント時代のつげ義春池上遼一も登場する。
彼らのファンにとっても必読であると思われる。