以前記したかも知れないが、昔働いていた某社で営業担当だったRさんは、日本を代表するウルトラ大企業様に勤めていたのだったが、社内不文律を無視し妊娠3ヶ月となっても辞表を提出しなかったのだそうだ。「そんなの会社が間違ってる。わたしは絶対に従わない。働けるまではたらく」と決意していたらしい。

ところがある日、いつものように出社したら昨日まであった自分の机が消えていた。同僚諸氏に聞いても「えっ!ほんとう?なぜかしらん?」などとしらこいことを云うばかりだったという。

そんな彼女の有様を見るに見かねて助太刀してくれたのが、他部署の上役氏だったのだそうだ。結局そのひとの下でもう一ト月余計に働くことができたのだったが、それ以上頑張ると今度は彼の立場が危うくなるぞヒヒヒと直属上司から仄めかされ、止むを得ず辞表を提出したとのことである(この話は昭和五十年代半ばのこと)。

じつは、そのタブーの一端を破ってくれた他部署上役氏は篤信のキリスト教徒であったそうだが、面白いことに、Rさんはバリバリのレッドなのであった(レッドが資本主義の本丸に乗り込み獅子身中の虫を演じたという図柄か?)。

おれはこの話を聞かされたとき、「さすが日本を代表するウルトラ大企業様だ。そのような個性ある人材を採用する度量をしかと持っていらっしゃたんだなあ」と感心し、かつて満鉄調査部がさまざまな思想信条の持ち主/イデオローグの蝟集機関であることをも想起させられた。

Rさんは子供が5歳になってから、まったくの門外漢にもかかわらず某芸能事務所に就職し、バリバリの営業ぶりで名をあげることとなったらしいが、ホント、芯から強い女性であった。

ちなみに彼女も高卒なのであった。