もうずうっと昔のはなしです……

見た目からして「才媛」という言葉そのままのYK先生は、大馬鹿どもが相手の再履修ドイツ語を指定の教科書を使わずハイデガー(テキストは失念、もしかすると『 Holzwege』?)で通すことを高らかに宣言された――いっとくけど五流私大の話である。
講義の途中カップに注いだ紅茶を口にしながら、およそくだらぬ私語に興ずる低脳学生に向けてノールックでチョークを投げつける御姿は、ほんとうにクールで惚れぼれしたものだったが、当時の俺はたかが再履修の語学授業でハイデガー相手に一年間呻吟させられるなんて真っ平御免だと思っていたので、「先生、後期は心機一転、テキストを変えられるおつもりはないのですか?(しましょうよ)」と質問したところ、「いいえ、そのつもりは御座いませんわ(にっこり)」と返されてしまった。
その日の授業の終わりに、愚者の巣窟=経営学部の男子がたまらず、「先生、このテキスト、何が云われているのか僕には全然分かりません。これから先どうしたらいいのか見当もつきませんっ」と泣き出すのであったが、先生は「まーあどうしてですの? それほど構えなくてもよーく考えれば『なるほどそうか!』と分かることが書かれているじゃないですか?」と微笑とともに受け流されるのであった……。あはははは。