S君は沙翁演劇部員だった。二度ほど招待された。三百人劇場だったかな。艸も呼んだ。「マクベス」と「間違いの喜劇」だった。

同じく小学校の同級生だったごっさんは紀尾井町で英文学を学んでいて、S君の大学の一座と共に活動していた。ごっさんはS女史と並ぶ読書系女子であり物静かな性格だった。松本零士が好きで「銀河鉄道999」のアニメ放映が始まる日、女闘士Hから「ごっさん、今日は楽しみでしょう」と声をかけられていた。

ごっさんの御萱堂様は町内の図書館(児童室)で働いていらした。おれとA君が毎日のように騒いでいるのをみて困惑の表情を浮かべるのであったが、一度も我々を叱り付けることがなかった。猿に等しい子供らに何を言っても無駄だと諦念されたのであろう(本当に申し訳ありませんでした)。

S君は同期の部員と二人で柴田錬三郎「邪法剣」をこっそり上演してみたいと語っていた。果たして実現したのであったか? もしそうであったならそれをこそ観劇したかったなあ。
邪法剣 (新潮文庫)
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