女賢しゅうして牛売り損なう
幼児から小学校低学年にかけて買ってもらった怪獣たちを、おれは全部ひとまとめにして庭の物置スペースに保存しておいた。一生の宝物にするつもりだったからだ。
ところが、たしか中2のときだ。久しぶり確認してみようと庭を探してみたところ箱そのものがどこにも見当たらない。母親にたずねると「あー、あんなのはとっくの昔に全部捨てちゃったわよ」などと事も無げにほざくではないか。「ふざけるなーっ」と、おれはカンカンになって、それこそ涙をながさんばかりに逆上したのだが、「おまえがいつまでも怪獣だの恐竜だのいってるのをみて、かあさん不安になったんだよ……」などと今にもシクシク泣きそうな顔になるので、おれは「なるほどそれではいたしかたありますまい」と引き下がるほかなかった。当時はまだ、母親がそれくらいの小芝居をうつことなど朝飯前であることを知らなかったのである。
後年お宝探偵団のような番組がはやってきて、ブルマァク製の煙を吐くブリキのゴジラやソフビ人形に目ん玉飛び出るくらいの値がつけられるとき、おれはわざとらしくTVの音量を上げた。母親は嫌な顔をしていた。