昨秋ビックマック200円セール期間中は何度かマクドナルドに立ち寄りました。
ある晩、時間的に良い席が空いている確率の高い喫煙席ルームに向かったところ、何かイベントの如き大喧騒が待ち受けていて、「一体なんの地獄が生起しているのか?」とガラスドア越しに確認すると、空間全体が肉食系白人女子たちの占領下になっていることが見て取れました。高校生らしき5人組です。なんか面白そうな予感がしたので恐るおそる席につきました。
見たところ彼女ら、近所の米利堅学校の生徒風ではありますが、それにしては(失礼な話)ちょっと脳ミソが少なめな感じです。でも、いかにも富裕層子女らしき美人さん達です。よく分かりませんがフォーマルな場所からの帰宅途中みたいな雰囲気なので――私の英語力では出身国までは判断できませんでしたが――もしかすると短期交換留学生なのかもしれません。
いやまあしかし、彼女ら完全なるリラックス状態です。巷で騒がしい外国人に遭遇することは決して珍しいことではありませんが、はっきり申し上げてここまでのレベルは初見であります。来日して日が浅いのでしょうか、グローバルなマクドナルドに安堵されて自宅のリビングで寛ぐかのようにはしゃいでます。
そのうち、「ぎゃーははは」を軽く超越した「ぐわーッはははははっ」という豪快な笑い声が「ジャップなんて全員ハンバーガーにして啖っちまうぞー」との挑発が込められているかのように響いて来たのですが、まさにそれが挑発であることは直ぐに気づきました。
どうやら彼女らは、iPodを聴きながら勉強している邦人女子高生二人組(制服ブレザー)に相当な敵愾心を燃やしているようなのです。たまに二人組がJPOPを幽かに口ずさむのを認めると、意地悪そうな表情を浮かべながら「ヒャーヒャーヒャー」「ニャーニャーニャー」とあからさまに莫迦にした態度で揶揄し始めるのです。でも二人組がガン無視態勢を貫くので、ふたたび「誰それが馬鹿をかました」だの「誰それが恥ずかしいことをやらかした」だの、今度はフリ真似も交えながら大爆音トークの華を咲かせ始めます。のべつ立ち上がったり通路をうろついたりと多動なことといったらありませんが、これが一種の示威行為であることは明晰判明に理解できました。

結局そんな光景が小1時間ほど繰返されたのですが、吾らが邦人女子高生二人組(制服ブレザー)は「あー肩こったっ」などと呟きながら伸びなどをして、肉食系らの煽りなど一切眼中に入っていないかのような“クールジャパン”の矜持を示したままあっけなく帰って行きました。わたしにとっては、これほどの「儀礼的無関心」が遂行されたのを目撃するのも初めてでありまして、以前雑誌で、労働階級の餓鬼たちに挑発されながらも涼しい顔をして路傍に佇むシルクハット姿の英国・イートン校の生徒たちを目にしたことがありましたが、まさにそれを思い起こしました。
さて、残された肉食系らは明らかに興ざめな様子ではありましたが「あたいら結構楽しんだぜー」てな感じの充足感を漂わせつつ、やっぱり、あっけなく引き揚げて行きました。その瞬間、背後席でラップトップPC(マックでマック)をいじっていた邦人草食系男子グループのひとりが「やーっと五月蠅せー奴らいなくなったよ……」とたまらず呟き、もうひとりが「うふふふ」と微笑したことで、事態の終息が宣言されたように感ぜられました。
てなことで、ここまで読んでいただいて申し訳ないんですが、実はこの出来事の肝というのは、当集団のボスキャラが階段を下りながら「Oi! Oi! Oi!」と雌叫びを上げたことにあるのです! このときわたし、白人女子による“Oi”を始めて耳にしたのでした。