The last moment

といっても私は純がつく凡夫だ。
偉人達のようにはいかないかもしれない。
そんなことをつくづく考えていると、

上に収められた、小林秀雄 vs. 坂口安吾 の頁を開いていることがある。

(引用させていただきます):PP108-109

坂口:小林さんは圓熟したといふけどね、俺はもう破裂しようと思つてるんだ。
小林:破裂? 破裂なんざいけないよ。
坂口:さうかな。
小林:信仰心の足りない奴だ。
坂口:もうやつちやふよ。めんどくせえから……
小林:短氣起しなさんな。
坂口:小林秀雄なんていふのは死ねる奴だね。だけど、俺はさういふこと、嫌ひなんだよ。
小林:何?
坂口:例へばかういふことを言ふんだよ。死ぬ座について顔色を變へなかつたとか、そんなことを言ふんだね。そんなバカなことないよ。顔色を變へたはうがいゝと思ふんだよ。お前をこれから死刑に處します、と言はれたら、眞つ蒼になるよ。
小林:そんなこと、通俗ぢやないか。
坂口:ところが、通俗ぢやないよ。それが文學を支配してると思ふんだ。
小林:顔色は變へないはうがいゝだらうね。
坂口:さう? 僕は變へたはうがいゝと思ふな。
小林:芥川龍之介の逆説かね。
坂口:あれは、顔色を變へる方がいゝ、といふ原始にかへれ、といふやうなモラルをふくんでゐるが、僕のはさうぢやなく、さういふ意味の大人物になるのはムダな勞力だといふ能率論だ。

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小林秀雄対話集 (講談社文芸文庫)
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