それとはある意味逆なことにも遭遇した。
東横線沿いのゆるい坂道を自転車に乗った20代後半の女性がもの凄い勢いで通りすぎていったのだけど、ほとんど音をたてずに急停車し、サッとスタンドを立ててビルのなかに入っていった一連の動作が、さてどういったらよいのかしら、所作に一ミリも無駄がないといえばいいのかしら、ともかくその無駄のなさのせいで、当該女性の遠ざかる姿が30メートル先にまだ見えているような幻影に襲われたという、生まれてこのかた一度もなかった経験? それとも全く記憶に残らないだけで実際のところ日常茶飯というべき事象? 一体どちらなのか? という、おそらく生まれてこのかためったに味わうことのない曖昧な経験をしたらしいという、いそがしく付言すれば“らしい”が付加されてさらなる茫漠さが加味されたという、ともかくある種の新鮮味を感じる夏日の瞬間を生きていたことを、俺はいまここに書き記すことにした。。。