そういえばまだ寒い時期、ヴェロの窓側で本を読んでいて、手首のあたりが突然ゾワゾワと感じたので目をやると、見たこともないブレスレット形の虫の如きが腕をのぼって来るのでうわっと声を上げそうになったのだが、瞬時に、道路を通過する車輛のヘッドライトが妙な形で反射していただけのことに気づいた。

わが脳髄は、本当は視覚が先行したのに何ゆえかから触覚を錯覚させ、かつ、触覚を視覚に先行させて意識にのぼらせたのだ。

時間にするとどれだけのことだったのか。1秒かそこらだろうか。

あまりにヘンチクリンな経験だったのでもはや読書どころではなくしばらく唖然としていた。そして、やはり俺という人間はいろんな意味で騙され易いタイプではないかとの深い疑念にかられていた。