なぜだか、かのラビが我が家を訪問している。
此れぞ好機と、なんでもいいから彼に質問を浴びせ、ぜひともラビの説法を体験したいものだと考え、その場の思いつきの質問をする。
「いま巷ではノロウイルスなんかが蔓延していますが、食べ物と病気についてラビはどうお考えですか? ほら、神経質なS君なんかは電車のつり革を直接触れることができずわざわざハンカチを使ってるじゃないですか?」
文字通り単なる思い付きを口にしているので、まるっきり頓珍漢な質問である。ラビは大変頭のよい方なので、オレがなんでもいいから話をしたい気持でいることを察し、それを好意として受けとめて呉れ、「それについてはきっちり話さなくてはなりませんな……」と穏やかに仰るので、では場所を変えましょうということに相成る。
ラビは、うちの仏壇に置いていた(トーラーの一節を織り込んだ?)布を特別な容器に納める。
ラビの食事を取り寄せなくてはならないので、彼の世話係に連絡し、食事規定にのっとったものを持ってきてもらう。
それを受け取った俺は、高齢のラビが食べ易いように小さく切り分けることを試みるが上手くゆかず、そのホットドックのようなものはぐずぐずになってゆく。これじゃ申し訳ないので、うちにある食材でフォローしようかと腰をあげるが、そもそもそれが出来ないからこそわざわざ広尾方面から取り寄せたことを思い出し、冷や汗を流す。
世話係の青年は温厚で誠実な人柄そのままの好人物なのだが、俺が余計なことをしていることを察知し困惑した表情で近づいてくる。
「だいじょうぶですか…」と彼に声をかけられた俺は、ぐずぐずになってしまったホットドックのような食べ物を彼の目に触れないように誤魔化そうとする。
「いやしかしこの成り行きはなんなんだ。一体全体なにやってるんだろう」と猛烈に後悔し始める俺……。