昨晩東横線の脇道の暗がりを歩いていると、商家の軽トラックが徐に通り過ぎようとしていて、よく見ると荷台上には浴衣を纏った高校生くらいの女子三名が俺のことを息をひそめた様子でうかがっていたので、ちょっと驚いたふりをして微笑みを返したら、「アハヽヽヽ」「ウフヽヽヽ」と彼女らは、転がる箸を目の当たりにしたかのような楽しげなムードで遠ざかっていきました。

そういえば、背負われた幼子が俺の顔をみて莞爾とするのでこちらもすかさず笑顔で応えると、向こうはなおのこと手足をぱたぱた動かしてケラケラすることがあり、その瞬間ずいぶん得した気分になることがありまするが、たとえば、いきなり母親がこちらにやってきて泣き崩れ、「ああ生き神さま本当にありがとうございます、この児は生まれて初めて笑顔をみせて呉れました」などと云われるなど、自分が藁人形イエス(or仏陀)に祭り上げられる確率はいかほどかフェルミ推計せよという就職試験の答案に、「確率のことは面接のときに口答させていただきますが実際わたくしには経験が御座居ます」と回答をよこした学生がいたならば、筆記試験の結果などすべて抜きにして是非とも面接会場でその人物を確かめたく思うのだが、そんな料簡の俺はやはりバブル世代なのかなどとつらつら考えていたら、家に着いていました。

コガネムシが一匹、外灯の窓枠にすがりついてをりました。