今年の春に読んでいたこと思い出した。

帯文的/書店ポップ的に惹句すれば、“ここには、完全に基地の外に出て行った者に対して、常識人の言葉などとことん無力であることが描かれている”とでもなろうか。

というか、 »完全に基地の外に出て行ったこと« の判定基準のひとつが »言葉は無力« ということではあるのだが……。

亡き元死刑囚は永井均先生の著作からあまりにも浅薄な影響を受けその内容を短絡に信条化していたらしいのであるが、当書には、著者からインタビューを受けた永井先生が、“斯様なる御仁に付ける薬などなかろう”とばかりにハナから匙を投げていらっしゃる様子も記されており、まったくここまでの阿呆が現実世界に登場することになろうとはさぞや先生もあっけにとられているんだろうなあと、一種同情を禁じえない心持ちとなった。

とはいえ、じっさい下々の学生たちを日々指導している哲学系の知識人たちが接見にあたっていたら、はたして亡き元死刑囚の心情・信条はまったく変化せぬままであったろうか? という印象は抱いた。もちろん彼の心情・信条がいっそう堅固となる可能性をも含めて。