安部公房

ぼくも家がどこかといったらば、満州だったわけですよ。自分の家は……。それがなくなるわけでしょ。だから敗戦というものは観念じゃなく――愛国心が裏切られたとかじゃなくて――事実もう場所を全部失ったっていうことを、頭でなく体で感じていたと思いますよね。でもそれがそんなに辛くなかったね。人間て所詮いつでもなにかを失っていくほうが幸せだと思った。