紙芝居「ナシの五にんきょうだい」


あたしの小学校時代は、教室内では班を組まされていて、だいたいが仲のよい者同士の寄り集まりであった。
小学校4年生のときであるが、どこの学級にでもいるであろう御莫迦者が集まった班にヘラクレスというのがあった。名前のイメージとは相違して運動(+勉強)は一切苦手な連中だ。
当時1学期と2学期の各1回「お楽しみ会」というのが催され、そこでは各班が独自に企画した寸劇やら隠し芸やらを披露したりするのが常であった。
あるとき、その悪名高きヘラクレス班が開陳したのが“紙芝居「ナシの五にんきょうだい」”であった。これは『シナの五にんきょうだい』のパロディであって
“一番目の兄さんは海水をちょっとでも口に含むと海水になってしまう。二番目の兄さんは首が紙で出来ている。三番目の兄さんは足をどんどん短くすることが出来る。四番目の兄さんは火に触れるとあっというまに灰になってしまう。五番目の末息子はずっと息を吸いつづけることができる”
という眩暈のしそうな設定であった。しかもヘラクレスら製作者たちは、絵の作成にたいそう時間をとられてしまい科白をほとんど覚えておらず――加えてもともと莫迦なので――それを記してさえいないありさまだった。
連中は3分間くらいもぞもぞしていたのだが、そのうち不首尾の責任を互いに仲間のせいにし始めた。流石に担任のI先生もあきれ返って、「もういいから、絵だけを見せなさい!」と厳しく命ずるところとなった。
すべての科白をはぶかれて次々とスライドされる絵面からは、結局五人きょうだいはひとつも困難を克服することなく、あっけなく全員が死亡するという、きわめて悪趣味な内容であることがうかがわれた。終了後ただちにI先生は「じつにくだらん!!」と講評され、学級全体も同意した。
しかしながらオレにとっては、そのふざけた内容とともに、訥弁の彼らがI先生の怒りを買うまでの一連の流れのすべてがとてつもなく可笑しい天然コントのように思われた。作品面では、首が紙でできている二番目の兄さんの頭部がカッターで斬られてどっかに飛んでいくサマの、その朴訥に微笑んだ稚拙なタッチに、「なんで微笑してるんだよー」と大爆笑したのであった。