昨年のことである。商店街の十字路で、おぢさんの自転車とおばさんの自転車が衝突した。
おばさんは自転車とともに緩慢に倒れたままじっとしている。おぢさんは自転車に跨ったまま黙っておばさんの様子をうかがっている。
けっこう距離があったはずなのに気づけば二人の傍まで来てしまった乃公に、倒れたおばさんへ手を貸してあげようとの意志が働いたことに嘘偽りはない。
が、その瞬間、寝ッ転がったままのおばさんが「いたーい、いたーい」と声をあげはじめ、それに呼応するかたちで、おぢさんも「痛っー、痛っー」といいながら向こう脛をさすりはじめたのである。
俺はなんか莫迦らしくなってしまい、「あっ大丈夫ですね」と呟いて何もせず通過してしまった。
いまでもこれでよかったと思う。