俺の母校にはあるタイプの人々から鬼と呼ばれた生え抜きのA教授がいて、なぜ鬼なのかというと、単位充足条件から外れる学生は容赦なく落していくからであった。

当時大学院に在籍していたサークルのB先輩が教えてくれた話では、A教授は、就職が決まり先生の単位さえOKならば卒業ができるという女子学生の泣訴に対して「ちゃんと授業に出席して試験を受けて来年堂々と卒業しなさい」と繰返すだけで、最後に彼女は「ううううっっ」と嗚咽しながら教官室を出て行ったとのことであり、B先輩は「さすがにちょっと可哀相じゃなかろうか」と眉を顰めていた。

世間は狭いもので、じつはこのA教授の息子が白目高さんの大学時代の友人で、彼は、「死ねー!」だか「バカ野郎!」だか、たまに学生とおぼしき連中からの呪詛を電話をとおして聞かされるハメになることをこぼしていたらしい。

とはいえ先生は、まじめな学生からは慕われていた。行き場のなくなった院生に対しても就職を世話したり面倒見がよかったそうだ。

就職氷河期以降、先生はご自身のポリシーを貫くことができたのだろうか。5年ほど前に定年退職されたらしいが「やれやれ……」という体であったのではないかと想像する。