東横線渋谷駅でひさしぶりに切符を買ったところおつりが足りないことに気づく。
「ひょっとして……」と券売機のつり銭口をのぞくと粘着テープが貼ってあるじゃないか。いまだこんな古典的手法が通用するのかと思いつつそいつをベリッとひっぺがして捨てたのだが、非常に気持ちが悪かった。
それは、なんといっていいいのか、他人の小銭をかすめとるためにこのように姑息な手段を試みる人間をイメージしてのことではなく、狭いつり銭口上下左右にギチッと丸められて貼りこまれた両面テープ自体の“□”形から直接受ける印象なのであった。
どう表現していいのかむつかしいが、たとえば、気づいたら庭先にぶらさがっている蜂の巣の造形。掃除してみつかったゴキブリの卵鞘の造形。くまねずみが石鹸を齧った歯型……etc。
こうしたものに突然出くわすと、単純幾何学的な造形や模様が複雑な生命を維持する機能のあらわれであることに改めて気づかされ、なんというか、本当にうまく表現できないのだけど、精神の中枢をぞわっとなでられるかのような感触を得てしまうのである。