結局連休中は特別なことは一切なかった。
家族で特養にいる叔母を訪問しただけだ。
叔母は前回より記憶のほうが数段おかしくなっていて、80年間の人生の出来事が錯綜としているようだが、本人は全く気づいていない。
さらには、話している最中に只今誰と話しているのかの超短期記憶が変換されちゃうことがあるらしく、別にそれでもいいのだけど、「らしい」と推察されうるだけで彼女の心が本当はどうなっているかなんておよそ外部からは分からないということが意識にのぼりはじめ、思いもかけずそうした哲学的エレジーに出会ってしまうことに困惑させられた。
叔母は昔から勘のいいひとで弁もたちユーモアがあった。ありがたいことはそうした美質がいまも保たれていることだ。「おばさん、次くるときは何持ってくればいいかな?」と聞くと、「ん?……ひゃく・まん・えん」と当意即妙なリアクションが返ってきて、ヘルパーさんや周囲の老人たちを笑わせた。