そういえば「網走番外地」の原作者はおれの亡父の同級生で、かつ、二人が一時期一所に仕事をしてた御縁もあって、子供のとき二度ほど御自宅にうかがい、更には社員旅行にも同道させていただいたことがあった。

奥様が子供のおれの目にもハッとするくらい美しい方で、いま思い出してみると当時の藤圭子さまに似てらっしゃったような気がする。

社員旅行のことを母親に聞くと、厳つい風貌の人たちばかりだったので晩飯のあとの酒席ではちょっと恐々しながらお話し相手になっていたと云っていた。おれには普通のおじさん連中にしか見えなかったが、「なんだ坊や、釣りが好きなのか? それじゃあでっかい鯉獲らせてやるよ」とサングラスをかけた御兄さんに車で連れて行かれたのが、どこか公共的な施設内にある噴水+池のモニュメントで、たしかに立派な錦鯉が数匹泳いでいるんだがどう見ても鑑賞するために飼われているものなので、御兄さんが大きなタモで1m近くあるでかい奴を「ほらっ坊やもやってみな!」とザバっと掬いあげた瞬間周囲の人々の注視のまとになったときは、ちょっとこっぱずかしかったことを記憶している。