司馬遼太郎描く維新の立役者・明治初期の大立者を賞賛することにケチをつける気持ちは毛頭ないのだけど、今次の如き長期的閉塞状況に於いては、明治維新後に旧賊軍として辛酸を舐めながら新しい日本を支えた人々に照明を与えてみては如何かと思う。
おれが放送界で影響力のある人間だったら、山川健次郎の人脈を主軸として、日本に新しい文化を拓いていった人々の大河ドラマ(3年間:計150話)を放映させたい。
少年時代の山川を預かった長州藩士・奥平謙輔(萩の乱で斬首刑死)、山川の妹・捨松津田うめ、仇敵関係であるにもかかわらす捨松に一目ぼれし妻に迎えた旧薩摩藩大山巌柴五郎夏目漱石福沢諭吉などなど魅力的な人々が数多く登場するストーリーをどうやってまとめるのかは、どこか才能のある作家・脚本家さんにまかせるしかないのだけど、誰かいらっしゃるのだろうか。資料集めも大変なことに違いあるまい。寺田寅彦が通勤ラッシュの考察(リンク12)のため路面電車を調査している姿のラストシーン(大団円)なんてジーンとくるんだけど。
昭和文学全集〈第3〉寺田寅彦集 (1952年)
明治を生きた会津人 山川健次郎の生涯―白虎隊士から帝大総長へ (ちくま文庫)
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ちなみに、上にリンクした星亮一『明治を生きた会津山川健次郎の生涯―白虎隊士から帝大総長へ』では、国から留学費用の支給を打ち切られ帰朝命令が下された山川健次郎に、寄宿先のアメリカ人夫妻が学費を出資するエピソードが書かれている。逼迫財政のなかで留学を許された薩長子息の多くは、英語すら習得できず授業から逃げて酒を飲み仲間内で放言するばかりの体たらくであったそうだが、維新前後の日本男子は皆凄かったという思い込みに修正を加えるべき貴重な逸話だと感じた。
とはいえ事は現在でもそれほど変わらないのではあるまいか。学生時代、各週の厖大な課題・宿題を前にして本当に涙を流しながら――シクシクべそをかいて――取り組みつつも夢破れて帰国とあいなった留学生の話を聞いたことがあるけど、そうした経緯は普通多くは語られない、というか、秘匿隠蔽されるに違いあるまいし、そんなのはまだいいほうで、なかには思いつめて自死を選択するひともいるそうじゃないか。
なのでわたしは、海外の真面目な大学で修士とか Ph.D とかを取得する人に対してはその専門に関わり無く素直に敬意を抱いてしまう単純型人間です。