ざらついたよ

前世紀末、友達の兄弟が勤めている会社にアジアのとある国から研修に来ていたYu君と、たまたま彼の母国の料理を供する大衆居酒屋で飲むことになった。
Yu君はその国の大富豪の子息でアイビーリーガーという属性なのだが、見た目からして坊ちゃんタイプである。とても物静かではあるが、あまりひと様に気をつかうタイプには見受けられなかった。実家には高級外車が十台近くあるのだと云う。合衆国ではBMWを足代わりにしていたとのこと。
豚料理が運ばれた。K君とOさんはじっと皿を見て「毛抜きしていない手抜き料理だ! 食べる気しないよ!」と突っぱねた。俺はたとえどんなものであっても郷土料理を出身者の前でバカにするものではないとの料簡でいたから、二人の礼を失した態度に軽い憤りを感じた。Yu君は「大丈夫だよ。このままでも美味しいんだよ。これが地元流さ」と皿を俺の前に置いた。なるほど、よく見なくとも毛抜きに手抜きしていることが分かった。それも、剛毛といってよいレベルじゃないか。
いやだなーと思いながら頬張ってみた。嚥下した。豚剛毛のざらつきが喉をゆっくり通過し胃のなかでもチクチクするのが感ぜられた。お穢っというえずきを抑えて曖昧に頷いてみせた。K君は顔を顰めながら「よくそんなもの食えるねえ……」などと忌憚のない言葉を吐いた。俺はその皿をYu君に渡した。彼はそれを軽くスルーしてテーブルの端に置いた。そして、何もなかったかのように最近観た映画の話をし始めた。
それ以来俺は、彼の出身大学の名を見聞きすると、あのざらつきが思い起こされるようになったのです。