手品といえば大学時代の同科生が既に稼ぎのあるマジシャンだった。
課外活動に忙しかった彼は授業にはさほど出席せず、卒業がかかったドイツ語演習の試験では持ち込み可能なのに辞書を持参していなくて、担当教授が「きみ、大丈夫か?」と心配した。
クラスの皆んなは、「先生のところに僕の辞書が迷子になっていませんか?」と、彼が教授のジャケットから木村・相良をやおら取り出すパフォーマンスを期待したのだが、何も起きはしなかった。