悪夢death

キリスト教文化圏。おそらく東欧の一国。
大学時代の友人Jとレストランにいる。

Jが注文したのはとてつもなく奇怪な一品だ。
民族衣装をまとった人間の形をしたホットドックのような料理。ぞんざいに「人形パン」とでも呼んでみたくなる代物。見た目が童話のイラスト風。もともとは燔祭の代用物だったらしい。隣テーブルの男がナイフとフォークで切り刻んでいるのが眼に入るが、そのサマはキリスト教というよりは殆ど黒魔術である。

Jは皿の上の「人形パン」をフォークで弄んでバラバラにしただけで口にしない。トマトソースにまみれたソレは伊太利亜の低俗スプラッタ映画を思い起こさせる。

(場面一転して)

東アジア人が経営する居酒屋。
Jの顔の下半分が黒ずんでいる。よく見ると顔全体が青ざめており、ところどころ真っ黒な老斑が太陽の黒点のごとく散らばっている。いずれにせよ健康が著しく阻害されているのではないかと危惧される。
「きみ、大丈夫か?」と気遣うと、
「大丈夫、彼がいるから。彼はね育ちがカナダなんだよ」と、傍らにいた友人を紹介する。オレは彼の存在に気づいてはいたが偶々相席になった他人かと思っていた。

スポーツ刈で眼鏡をかけた、日本のお笑い芸人(バッファロー吾郎)のような風貌のカナダ育ちの男は、たしかにチョット日本人離れしていて元来陽気者のようである。海外生活に慣れているというだけあって異文化圏にいる緊張感を微塵も感じさせず体育会系的な頼もしい印象がある。

Jもそんな友人が大好きなようで、おたがい冗談を言い合ったり、酔った勢いでじゃれあったりしている。
興にのった二人はそのうち衣服を脱ぎだし子供のようにはしゃぎ始める。
オレはそれを斜に見ながらもお愛想で笑ってあげていたのだが、いい加減付き合いきれなくなってくる。お前ら旅の恥はかきすてか?

突然、破目をはずしたカナダ男は、東アジア人の女将に抱きつき彼女の衣服を剥いで全裸にしてから、「ワハハ」と笑いながら身体をすり合わせる真似を始める。

これは最悪だ。しかし、Jは大笑いしており、日本人ビジネスマン風の幾人かも「ヒューヒュー」囃し立てている。

女将は屈辱で涙をながしながら「アイ、アイ、アンタ、オモシロイヨ、アンタ、オモシロイヨ」と云うだけで、されるがままになっている。Jはそれを止めようともせず非常識な酔っ払いのままでいる。

オレは友人の体たらくよりも女将の言葉に甚大なショックを受ける。
日本人は「オモシロイ」ことのためにはすすんで品性を下劣にする民族だと思われているようなのだ。
現地人の客達は「アア、イツモノコトネ」という表情で我々を無視している。

いやいやまってくれ、犬に誓っていうがこんなことは誰がみたってオモシロいはずがない。ただの糞だ。

国際派ビジネスマンの二人は普段からこんなことをして激務の憂さをはらしているのだろうか。
二人をここまで下劣な人間にしてしまうのは一体何なのか、恐怖すら覚えるオレ。

(覚醒)

随分な悪夢をみてしまった。
J君ごめんなさい。お赦しください。
ずっと昔、知り合いのカメラマンに聞いた話が歪な形で夢になったものと思われます。
あくまで夢の話です!(ことを祈る)。