深沢七郎ギター

深沢七郎のCDを聴く。
正確にいうとCDではなく知人に録音してもらったテープである。

正直言って、聞いてるうちにハラハラしてくる。
これって一発録だったのだろうか、と思う。
もしかすると酔っていたのかな、とも思う。
押弦がやわらか過ぎるせいか、殆どミュートしている箇所にさしかかる。
「あれっ、えらいことになりそうだぞ」と銀やんが云う。
「ギターのことなんか忘れたほうがよいでごいすよ」とギッチョン小屋の親父が呟く。
「お屋形様に知られてみろ、おまえらうち首にされるぞ」と、狭量な百姓が身を構えはじめる。

しかしである。
いみじくも武田泰淳が「心にしみるね〜」と語ったことに嘘はなかろうと思う。
なにより曲がいい。
なによりも曲が、深沢空間とぴったり一致しているのだ。
だから、技術に目をつぶって何回も聴いてしまう。
最後の「楢山節」にきて、ようやく、ひちろうさんの唄聲がスピーカーからひびいてくる。

まったき深沢空間に心が沁みる。

樽山節(祖母の昔語り)

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