三冊

悲しいことに、というか予想通りというべきか、私が出会う中で詩歌に興味を抱いてくれる人は殆どいない。殊に俳句となると、「ナニソレ(信じられない)」という実に悲しくも差別的な言辞に出会うことすらある。

それでもまあ、いつか一人くらいは本気で興味を抱いてくれる誰かと出会うこともあるだろうということで、その折には、三冊の本を薦める(あるいはプレゼントする)ことに決めている。

すなわち、小林恭二『実用 青春俳句講座』(ちくま文庫)西東三鬼『神戸、続神戸、俳愚伝』(講談社文芸文庫)、そして、楠本憲吉『戦後の俳句―<現代>はどう詠まれたか』(現代教養文庫)である。

とくにクスケンさんの文庫は、焦土から立ち上がらんとする個性豊かな俳人たちがずらりと登場し、例えば、鈴木しづ子といった、おそらく娼婦として口を糊していたと思われる作家までも知ることができる。巻末に索引も編集されているので便利このうえない。本当に素晴らしい文庫本なのであるが、現在入手困難。それでも、俳句に興味を示してくれる筋のよさそうな相手があれば、なんとか探し当てて(自分が持ってるやつでもいいけれど)プレゼントしたいと思っているのである。

さて、上記三冊の共通項として、ひときは強烈な個性が存在する。
それは耀きを放つというよりも、ネガフィルムを通して視える<陰陽>逆転の結像を塊として、こちら側にドスンと無造作に抛ってくるかのような、不敵な存在感を匂わせる俳人である。
すなわち、大原テルカズその人である。『実用 青春俳句講座』には小林恭二がテルカズ句と出会った時の興奮が語られている。私もこの文庫の御蔭で希に見る暗星系俳人を知ることになったのでした。ありがとうございます。

といっても未だに、クスケンさんの友人であり、かつ、西東三鬼に推された男という僅かな背景しか知らないし、私の手許には全34ページの抄集があるのみだ。希に句集が売りに出されることもあるが、とてもとても購えない値付けとなっている。

ところが、市川の図書館が収蔵しているらしいことをWEBサイトでみつけて歓び勇んで足を運んでみたことがあった(六年ほど前?)。結果は行方不明ということであった。司書の方も一所懸命探してくれたのだがダメであった。がっくしきた。疲れた。

彼の句(一行詩)に、

複製の「狂女」(スーチン)と飲めり
がある。昭和30年代にスーチンの複製なんて手に入ったのだろうか。
しかし、あのフランシス・ベーコンに影響を与えたリトアニア生まれのユダヤ人(天才)画家・カイム・スーチンを大原テルカズが好んだというのは実に「なるほど」と思う。

実用 青春俳句講座 (ちくま文庫)

実用 青春俳句講座 (ちくま文庫)